多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?診断基準や治療について産婦人科専門医がわかりやすく解説

多嚢胞性卵巣症候群とは?

まず多嚢胞性卵巣症候群というのはどういうものかというと、生殖年齢で生理がある年齢の女性の大体5%から8%に発症するというように言われています。
これは生理不順になってしまったり、月の生理が来なくなってしまったりすることに加えて、超音波検査で断層の中に排卵されてない卵がいっぱい見えるような病気になりますが、排卵しないので不妊症の原因だったりもします。
男性ホルモンがちょっと高くなっている方も多かったりするので、毛がいっぱい生えてしまう多毛などが見られることもあります。多嚢胞性卵巣症候群の方を診たりすると、もちろんすべての方ではありませんが、太ももの裏にびっしり毛が生えていたり、顎のところにちょっと毛が生えていたりする方も
いらっしゃいます。
また、肥満も原因のひとつになったりします。ただ、これが確実な原因と言われているものがあまり解明されていません。
そのため多嚢胞性卵巣症候群と言われたときに
「では何が原因なんだろう」、
「なにか変な食べ物を食べたからかな」とか
「私の生活スタイルが良くないのかな…」とか
悩んでいる人も多いと思いますが、実際はこれというものがわかってないというのが現状です。
ただし、肥満がある方であれば、生活スタイルを改善して減量をしたりすることで良くなったりすることもあります。

診断基準

実際にどのような診断基準なのかというと、日本ではこの多嚢胞性卵巣症候群の診断基準というのが
日本産科婦人科学会で明確に定められています。
(日本産科婦人科学会診断基準を引用しながら解説します)

以下の1から3のすべてを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする。
(すべてを満たすことが必要)

【1】月経異常

月経異常は無月経、稀発月経、無排卵周期症のいずれかとすると書いてあります。
無月経は3ヶ月以上生理がない場合、稀発月経はたまにしか生理がこないポツン・ポツンと生理が来るという場合です。
無排卵周期症というのは薄い出血があっても、しばしば生理のような出血があるけれど、実は排卵していなくて基礎体温が一定になってしまっている方のことを指します。

【2】多嚢胞卵巣

多嚢胞卵巣は超音波断層検査で両側卵巣に多数の小卵胞がみられ、少なくとも一方の卵巣で2~9㎜の小卵胞が10個以上存在するものとする、となっています。
実際に多嚢胞性卵巣症候群の方の超音波検査を見ると、卵巣の中に黒いポツポツがいっぱい見られます。これが排卵されていない卵になります。

【3】血中男性ホルモン高値またはLH基礎値高値かつFSH基礎値正常

つまり、血液検査でホルモン異常がなければ、多嚢胞性卵巣症候群と診断することができません。

“月経異常” かつ “エコーでの多嚢胞性卵巣が見られる” かつ “ホルモン異常が採血で見られる”、この3つすべてが揃わないと多嚢胞性卵巣症候群と診断されないということになります。

上記3つすべて揃わなければ診断基準を満たしませんが、「産婦人科に行ったら産婦人科の先生に
超音波の検査を見られた瞬間に多嚢胞性卵巣症候群と言われました」、と言われる方が多くいらっしゃいます。
でも実際はこのように、血液検査をしないと診断できないので、見た目だけでは診断できません。
見た目で似たような所見に感じることもありますが、特に生理の異常がなかったり、ちゃんと1ヶ月に1度生理が来ていたりすると「【1】月経異常」の診断基準を満たしません。また、血液検査をしなければ診断はできません。

多嚢胞性卵巣症候群は、実は診断基準を満たしていないのに多嚢胞性卵巣症候群と言われている人も少なからずいらっしゃる印象があります。
もし気になる方は一度かかりつけの先生に本当に診断基準を満たしているかを聞いてみてもいいと思います。

治療について

基本的には、

  • 今すぐ妊娠をしたい場合
  • 今すぐに妊娠を希望しない場合

という2つのパターンで分けられます。

今すぐ妊娠したい場合

排卵が止まっている状態なので排卵誘発剤を使います。そして、場合によっては肥満があったり耐糖能異常という糖を代謝する能力が落ちていたり場合には、糖尿病で使ったりするお薬を使うこともあります。
そんなに頻繁には行われてはいませんが、多嚢胞性卵巣症候群の場合には腹腔鏡手術をすることもあります。多嚢胞性卵巣症候群の方の卵巣の壁がすごく分厚くなっていて、卵巣の壁から卵が突き破れない状態になっているので、壁に穴を開けてもらうことによって排卵しやすくなります。
したがって、手術をするという選択肢もありえます。
この他にも色々不妊治療に準ずるような治療をしていきます。

今すぐに妊娠を希望しない場合

基本的にはホルモン治療になります。
例えば低用量ピル、超低用量ピル、オーダーホルモン療法、ミレーナ®といったホルモン治療が原則になります。
なぜホルモン治療をしなければいけないかというと、簡単に言うと子宮体がんのリスクを下げるためです。

最初にエストロゲンとプロゲステロンについて解説します。
エストロゲンとプロゲステロンは、両方とも断層から分泌されるホルモンですが、エストロゲンというのは子宮内膜という子宮の内側の膜を増殖、分厚くする作用があります。
そしてプロゲステロンというのはその分厚くするのを抑える役割があります。
分厚くしすぎずに子宮内膜をフカフカにして赤ちゃんのベッドを作る(着床しやすくする)目的があります。
簡単にいうと、エストロゲンがずっと増え続けると子宮内膜がどんどん分厚くなっていきます。

一方で、プロゲステロンは子宮内膜が分厚くなるのを抑える働きがあります。
通常、排卵すると卵巣の中に黄体ができて、黄体からプロゲステロンが出てきますが、多嚢胞性卵巣症候群の方の場合、排卵がないので本来排卵後に分泌されるプロゲステロンが出ないので、エストロゲンだけがずっと内膜を刺激し続けることになります。
排卵がずっとない状態で止まっているというのは、子宮体がんのリスクになってしまいますので、エストロゲンとプロゲステロンの分泌を正常にしてあげるという方法があります。

毎月生理を起こす方法もありますが、黄体ホルモン療法やピルなどで生理の回数を減らしたりする治療もできますし、ミレーナ®などを使って子宮体がんのリスクを減らしたりすることもできます。
その方のライフスタイルに合わせて治療を決めていくことになります。

ガイドラインなどには記載はありませんが、漢方薬が効くような症例もありますので、かかりつけの産婦人科に相談してみましょう。

肥満が多嚢胞性卵巣症候群のリスクにもなるとお伝えしましたが、「多嚢胞性卵巣症候群は体重減らしたら改善しますか?」と思われる方もいると思います。
肥満があれば改善する可能性はありますが、普通の体重の人や特に糖尿病などでなければ特にそれがリスクになっているわけではなくて、他のことが原因の可能性の方が高いので、わざわざ体重を減らす必要はありません。
もしBMIが25以上であれば、ゆっくりと減量していく必要があると思いますが、標準体重の人で特に糖尿病や耐糖能異常などが指摘されていない人であれば減量しなくてはいけないというわけではありません。

排卵してない状態をそのままにしておいてしまうと子宮体がんのリスクが高まってしまうので、多嚢胞性卵巣症候群や排卵をしていないと診断された場合には、今すぐの妊娠を希望していないようでしたら、ホルモン治療やピルなどをぜひ検討してもらえるといいと思います。