なんとなく疲れが取れない
体重が増えやすくなった
冷えを感じやすい
そんな不調に心当たりはありませんか?体の不調は「甲状腺ホルモン」の分泌が低下しているサインかもしれません。甲状腺機能低下症は、年齢や性別を問わず誰にでも起こりうる病気で、気づかないうちに進行することもあります。
本記事では、甲状腺機能低下症の原因・主な症状・早期に気づくためのポイントを分かりやすく解説します。体の変化に気づき、早めの受診や適切な対処につなげていきましょう。
甲状腺機能低下症とは?

甲状腺は、のどぼとけのすぐ下にある小さな臓器で、蝶が羽を広げたような形をしています。この甲状腺から分泌される「甲状腺ホルモン」は、体の新陳代謝を促し、エネルギーを生み出すために欠かせない存在です。
甲状腺機能低下症とは、この甲状腺ホルモンの量や働きが不足している状態を指します。
軽度の場合は自覚症状がほとんどないこともありますが、重症化すると意識障害などを起こすこともあるため、早めの発見と継続的な管理が大切です。
甲状腺ホルモンの働きと体への影響
甲状腺ホルモンには、サイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)の2種類があります。甲状腺で主に作られるのはT4ですが、体内でT3に変換されることで本来の働きを発揮します。
これらのホルモンは全身のほとんどの細胞に作用し、
- タンパク質や脂肪、糖質の代謝を調整する
- 体温を一定に保つ
- 心拍数を整える
など、生命維持に欠かせない役割を果たしています。
甲状腺機能低下症が起こる仕組み
甲状腺機能低下症が起こる原因は、大きく2つのタイプに分けられます。
原発性甲状腺機能低下症
甲状腺そのものに異常が起きて、ホルモンを十分に作れなくなるタイプです。主な原因には以下のようなものがあります。
- 橋本病(慢性甲状腺炎)
- 甲状腺の手術後
- 放射線治療後
- ヨウ素の過剰摂取
- 先天的な甲状腺の異常
中枢性甲状腺機能低下症
脳の下垂体や視床下部の働きが低下し、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の分泌が減ることで、結果的に甲状腺ホルモンが十分に作られなくなるタイプです。
通常はホルモン量が減るとTSHが増えてバランスを取りますが、中枢性の場合、この調整機構がうまく働かない点が特徴です。
どんな人が甲状腺機能低下症になりやすい?
甲状腺機能低下症は、中年以降の女性に多い病気です。特に橋本病は、成人女性の約10人に1人、成人男性の約40人に1人に見られるとされています。
また、
- 家族に甲状腺疾患がある
- 自己免疫疾患の既往がある
- 頭頸部への放射線治療を受けたことがある
といった人は、発症リスクがやや高いと考えられています。
また、甲状腺機能低下症は代謝とも関係があるため、体重管理に悩む方が生活面の工夫を検討することもあります。代謝の考え方を踏まえた医療ダイエットの基本をまとめた記事もありますので、気になる方は参考にしてみてください。
甲状腺機能低下症で現れる症状

甲状腺機能低下症の症状はゆっくり進行するため、気づかないうちに悪化していることがあります。
代謝が低下すると体全体の働きが少しずつ落ちていくため、最初は「最近疲れやすい」「年のせいかも」と感じて見過ごしてしまう方も少なくありません。
症状の出方には個人差がありますが、ここで紹介するような変化が続く場合は、早めに医療機関で相談することをおすすめします。
体に現れる変化(倦怠感・むくみ・体重増加など)
甲状腺機能低下症では、全身の代謝が落ちることでさまざまな身体的な症状が現れます。代表的なのが、強い倦怠感や疲労感です。十分に睡眠をとっても回復しにくく、慢性的なだるさを感じるのが特徴です。
また、寒がりになる方も多く、周囲が暖かく感じている環境でも自分だけ寒く感じることがあります。
むくみもよく見られる症状で、特に顔やまぶた、手足などに出やすい傾向があります。このむくみは「押しても跡が残りにくい」という特徴があり、一般的なむくみと少し異なります。
さらに、体重の増加もよくある変化です。食事量が変わらないのに体重が増えたり、便秘になりやすくなったりするのは、代謝が低下して体がエネルギーをうまく消費できなくなるためです。
精神面やメンタルへの影響
甲状腺機能低下症は、心の健康にも影響を与えます。気分が落ち込みやすくなったり、意欲がわかない状態が続いたりすることがあります。
また、記憶力や集中力の低下も特徴的で、「物忘れが増えた」「考えがまとまらない」と感じる方も少なくありません。話すスピードや動作がゆっくりになる場合もあります。
これらの精神的な症状はうつ病とよく似ているため、見分けがつきにくいケースがあります。実際に、うつ病と診断された方の中に、甲状腺機能低下症が隠れていたという例もあります。
抗うつ薬を使っても改善がみられない場合は、甲状腺の検査を受けてみることが大切です。甲状腺ホルモンのバランスが整えば、精神症状も回復していくケースが多いとされています。
女性に多い症状と注意点
女性の場合、甲状腺機能低下症は生殖機能にも影響することがあります。
妊娠を望む方にとって特に注意したいのが、不妊との関連です。甲状腺ホルモンが不足すると排卵のリズムが乱れ、妊娠しにくくなることがあります。
また、妊娠しても流産のリスクが高まる可能性があるため、妊活中に甲状腺の状態をチェックしておくことが大切です。
さらに、更年期の症状と似ていることも女性が注意すべきポイントです。疲労感、体重の増加、イライラなどはどちらにも見られるため、見分けが難しいことがあります。
甲状腺機能低下症の検査と診断の流れ
甲状腺機能低下症の診断は、まず問診や触診から始まり、血液検査、必要に応じて超音波検査へと進みます。
血液検査を行い、甲状腺ホルモンの値から診断を確定していく流れです。
血液検査で調べる項目(TSH・FT4)
甲状腺機能低下症の診断で重要なのが、血液検査によるホルモン値の確認です。
- TSH(甲状腺刺激ホルモン)
-
脳の下垂体から分泌され、甲状腺に「ホルモンを作って」と指令を出すホルモン
- FT4(遊離サイロキシン)
-
甲状腺から分泌されるホルモンの一種で、体の代謝をコントロールする役割を担う
甲状腺機能低下症では、FT4が低く、TSHが高くなるのが典型的なパターンです。これは、体が甲状腺ホルモン不足を感知し、下垂体がTSHを多く分泌して甲状腺を刺激しようとするためです。
また、FT4が正常でもTSHが高値の場合は、潜在性甲状腺機能低下症と呼ばれ、症状や年齢によっては治療の対象となることもあります。
超音波検査や問診で確認すること
必要に応じて、甲状腺の超音波(エコー)検査を行います。この検査では、甲状腺の大きさ・形・内部の状態をリアルタイムで観察でき、炎症や腫れの有無を確認します。
特に、自己免疫疾患の一つである橋本病が原因の場合、甲状腺が全体的に腫れていたり、血流が減っていたりする特徴的な所見が見られます。
また、腫瘤(しこり)やのう胞の有無も調べられるため、甲状腺がんなど他の疾患の鑑別にも役立ちます。
- 症状がいつから続いているか
- 家族に甲状腺の病気があるか
- 使用中の薬やサプリメント
- 海藻類やヨウ素を多く摂っていないか(ヨウ素の摂りすぎが原因となることも)
触診では、医師が首に軽く手を当てて甲状腺の腫れ・硬さ・しこりを確認します。経験豊富な医師であれば、触診だけでもある程度の状態を把握できることもあります。
こうした複数の検査を組み合わせることで、診断の精度が高まり、原因疾患の特定にもつながります。
検査を受けるタイミングと医療機関の選び方
次のような症状が複数当てはまる場合は、甲状腺の検査を受ける目安になります。
- 首の前側が腫れている
- 疲れやすい、体がだるい
- 寒がり、手足が冷える
- 顔や手足がむくむ
- 便秘や体重増加が続く
また、健康診断で「TSH高値」を指摘された場合も、甲状腺機能低下症が隠れている可能性があります。
甲状腺機能低下症の治療方法と経過
甲状腺機能低下症の治療は、不足している甲状腺ホルモンを薬で補う「ホルモン補充療法」が基本です。
症状の改善スピードには個人差がありますが、継続的に治療を受けることで多くの方に改善が見られます。
甲状腺ホルモン補充療法の内容
治療に使われるのは、レボチロキシンナトリウム水和物という薬で、「チラーヂンS」や「レボチロキシンNa」という名前で処方されます。
この薬は、体内で作られる甲状腺ホルモンと同じ成分で、1日1回の服用で効果が持続します。少量から服用を始め、血液検査でホルモンの値を確認しながら、数か月かけてその人に合った「維持量」まで少しずつ調整していきます。
急に量を増やすと動悸などの副作用が出るおそれがあるため、医師の指導のもとでゆっくり調整することが治療成功のポイントです。
治療中に気をつけたいこと
薬の効果を安定させるためには、毎日決まった時間に服用する習慣をつけましょう。
レボチロキシンは作用が長く、数日飲み忘れてもすぐに症状が出ることは少ないですが、飲み忘れが続くと再び甲状腺ホルモンが不足してしまいます。
また、過剰・不足のサインにも注意が必要です。
| 状況 | 主なサイン |
|---|---|
| 薬が多い場合 | 動悸、手の震え、汗が増える、体重減少 |
| 薬が足りない場合 | 疲労感、むくみ、体重増加、寒がり |
どちらの場合も、自己判断せず医師に相談して用量を調整してもらいましょう。
さらに、鉄剤・アルミニウム製剤・亜鉛を含むサプリなどは、薬の吸収を妨げることがあります。これらを使用する際は、服用時間を数時間ずらす必要があります。
治療を続けるうえで最も大切なのは、定期的な血液検査によるモニタリングです。症状がよくなっても自己判断で薬をやめてはいけません。甲状腺機能が安定した後も、定期的な検査を続けることが大切です。
妊娠を希望する方・妊娠中の対応
妊娠と甲状腺機能は密接に関係しています。
妊娠を希望する方は、事前にTSH値を2.5μIU/mL以下に保つことが推奨されています。これは、流産や早産のリスクを減らすために重要です。
妊娠中は、甲状腺ホルモンの必要量が約30%増加すると言われています。そのため、妊娠が分かったら早めに受診し、医師の指示に従って薬の量を調整することが必要です。
妊娠初期は胎児がまだ自分で甲状腺ホルモンを作ることができず、母体からのホルモンに依存しています。この時期に母体の甲状腺機能が低下していると、胎児の発達に影響を及ぼす可能性があります。
出産後も、ホルモンのバランスが変動するため、産後も定期的な検査を続けることが大切です。妊娠を考えている段階から、医師と一緒に治療計画を立てておきましょう。
甲状腺機能低下症と上手に付き合うための生活習慣
甲状腺機能低下症は、薬による治療とあわせて、日々の生活習慣を整えることで症状の改善や生活の質の向上が期待できます。
もちろん、甲状腺ホルモンの補充療法は体に必要なホルモンを補うための基本治療であり、生活習慣の改善だけで治すことはできません。
しかし、食事・睡眠・ストレス管理などを見直すことで、治療効果を高め、心身のバランスを保ちながら前向きに過ごすことができます。ここでは、日常生活で意識したいポイントを紹介します。
食事で意識したいポイント
甲状腺機能低下症では、代謝を支えるためのバランスの良い食事が大切です。特定の食品で病気を「治す」ことはできませんが、食事の工夫によって体調を整えるサポートができます。
まず注目したいのが、ヨウ素(ヨード)の摂取量です。ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料となるミネラルで、摂りすぎても不足しても甲状腺機能に影響します。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、1日のヨウ素推奨量は約0.13mgとされています。特に昆布はヨウ素含有量が非常に多いため、だしや佃煮などを毎日大量に摂ると過剰摂取になる可能性があります。わかめや海苔などを適量取り入れる程度にとどめ、バランスよく・適量を心がけることがポイントです。
また、代謝の低下によって体重が増えやすくなるため、野菜や食物繊維を多く取り入れて満足感を得ながらカロリーを抑える工夫も大切です。
ストレス管理と質の良い睡眠を意識する
心の健康も、甲状腺機能に影響を与えることがあります。ストレスが続くと免疫バランスが乱れ、橋本病など自己免疫疾患を悪化させる要因になると考えられています。
日常の中でできるストレス対策としては、
- 深呼吸や軽いストレッチ
- 瞑想やヨガ
- 趣味の時間をもつ
など、自分に合ったリラックス法を取り入れてみましょう。
また、質の良い睡眠も欠かせません。甲状腺機能低下症では疲れやすく眠気を感じやすいため、十分な休息が重要です。就寝前はスマートフォンやパソコンの使用を控え、部屋を暗く静かに保つことで、自然な眠りにつきやすくなります。
加えて、ウォーキングなどの軽い運動を習慣にすることで、基礎代謝の向上・ストレス軽減・睡眠の質改善が期待できます。ただし、体調がすぐれないときや症状が強いときは無理をせず、医師に相談のうえ自分のペースで行いましょう。
定期検査で体の変化をチェック
甲状腺機能低下症はゆっくり進行するため、症状に気づきにくいことがあります。年に1回程度、甲状腺機能の検査(血液検査)を受けることが早期発見につながります。
すでに治療を受けている場合は、薬の量を調整するためにも定期検査が欠かせません。治療開始後は1〜2か月ごと、その後は半年〜1年ごとに検査を行うのが一般的です。
自治体の健康診断や人間ドックを活用すれば、甲状腺の異常を早期に見つけることができます。検査を習慣化することで、甲状腺機能低下症の重症化を防ぐだけでなく、生活習慣病の予防にも役立ちます。
